「おもしろさ」は
無条件で受け入れる
揖斐 憲さん
(株式会社サイゾー 社長兼編集長)
Tadashi
Ibi


今回の『私が手がけた本』はサイゾーの揖斐憲さんです。
編集者独自の視点を持ち、面白いことに貪欲。
来るものを拒まず広く人と付き合うことで面白いことを作っていく。
そんな編集者としての姿勢をうかがいました。
ナナメから茶々を入れる「ひねくれ者」の視点が
自分に合っている
このコーナーは本づくりの思い出をお話するんですよね。ぼくの場合は編集者としてずっと雑誌をつくってきました。いま編集長を務めている「サイゾー」には創刊からかかわっています。
強く何かを主張するのではなく、世の中「当たり前」で通っていることにナナメから茶々を入れる「ひねくれ者」の視点。それがサイゾーらしさですね。サイゾーには創刊から携わっていますが、自分らしい媒体だと思っていますよ。
思い返せば子どもの頃から、インパクトのある文章やビジュアルを考えるのが好きでしたねえ。たとえば小学校1年生ぐらいの子どもの作文って、単に起こったことを時系列に書き連ねていくスタイルが多いでしょ。ところがぼくはといえば、兄貴に泣かされる場面を冒頭にもってきたりして。なんとなく書いたわけじゃないんですよ。 「こう書けばみんなにウケるし、先生にほめられる」って、ちゃんと子どもなりに計算してたんです(笑)……。
図画の時間には、みんなは横から見た象の姿を描いているのに、ぼくは上から俯瞰した絵にしたんです。図画工作は苦手でしたから、それはアイデア勝負です。
また、小学校6年生のときには「シルバーシートなんていらない」をテーマに弁論大会に出たこともありました。シルバーシートがなければお年寄りや身体の不自由な人に席を譲らないなんて、そんな社会はおかしいじゃないかという主張です。
みんなが当然だと思っていることに異議を唱えてみる……。それってサイゾーっぽい子どもだと思いませんか?
おもしろいことに絶対的価値観を持っている人を
無条件で信じます!
体制にカウンターは入れても、ぼくには強い主張はないんです。右とか左とか強固な思想があるわけではなく、天の邪鬼的なものの見方でからかって、それを否定されても反論しません。不感症なんじゃないかと思うくらい、何かに熱くなってのめり込むタイプではなくて、どちらかというと確固たる軸を持てないタイプです。
だから、おもしろいことに絶対的価値観を持っていて熱くなれる人や、その人が「おもしろい」と連れてくる人は、無条件で信じます。
サイゾー創刊のころからおつき合いのある高橋がなりさんは、熱くなれる目利きの編集者が発掘したひとりです。がなりさんは、サイゾーで露出してから2、3年後に「マネーの虎」でブレイクした方です。連載は終了してしまいましたが、がなりさんは、いまでもサイゾーに広告を出してくれています。
それから辛酸なめ子さん。サイゾー創刊当時、すでに一部では才能を高く評価されていましたが、いまほどメジャーではありませんでした。辛酸さんも、「この人はおもしろいから」と、情熱的な編集者が連れてきてくれて、実際にお会いしたら本当におもしろい人だった。彼女はいまも継続的にサイゾーに寄稿してくれています。